首都圏のJR・公民鉄では次期信号保安装置として無線式列車制御システム導入を目指す動きが相次いでいます。全2回の本連載では、2024年の動きを簡単に総括することで、在来線向け無線式列車制御システムをめぐる現状を整理し、記録に残すことを目的とします。本記事では、関東民鉄(東急電鉄・東武鉄道・西武鉄道・伊豆箱根鉄道)の動向を総括します。
1.はじめに
本記事では、無線式列車制御システムに関する動向の内、東急電鉄、東武鉄道、西武鉄道、伊豆箱根鉄道の4事業者に焦点を当てます。
2024年は西武鉄道で西武式CBTCシステムの走行試験が始まったほか、伊豆箱根鉄道大雄山線では2031年度を目標に無線式列車制御システム導入を決定したことが明らかになりました。以下に各社の動向をまとめます。
※本文中で頻出する保安装置関係の略語は下記の通りです。なお、CBTCとATPの関係についてはこちらをご覧ください。
ATS:Automatic Train Stop(自動列車停止装置)
ATC:Automatic Train Control(自動列車制御装置)
ATP:Automatic Train Protection(自動列車防護装置)
CBTC:Communications-Based Train Control(無線式列車制御)
ATACS:Advanced Train Administration and Communications System(JR東日本の無線式列車制御システム)
SPARCS:Simple-structure and high-Performance ATC by Radio Communication System(日本信号の無線式列車制御システム)
2.東急電鉄
2.1 施策全般
CBTCの導入区間等についてはこれまでと変わりなく、次期導入線区は東急田園都市線(2028年度)と大井町線(2031年度)とされています。
2.2 地上設備
導入時期が先行する田園都市線ですが、2024年12月末時点では、走行中の列車内から見える範囲で明確にCBTC向けとみられる新設備等は確認できませんでした。
2.3 車上設備
田園都市線および大井町線向け車両にCBTC対応が必要な状況です。
ただ、現時点ではATP車上無線局の設置など明確な変化は見受けられません。昨年の連載でも触れた2020系における2週間程度の作業についても事由不明のままで、CBTCと関連付ける根拠がない状態が続いています。(2020系・6020系のATC車上装置は、新製当初から、既存の保安装置に加えて新保安装置に対応するためのハードウェアが予め準備されています*1)
3.東武鉄道
3.1 車上設備
東武鉄道としては無線式列車制御システム導入を発表していませんが、相互直通運転を行っている東京メトロ日比谷線、東京メトロ半蔵門線・東急田園都市線でCBTCシステム導入が明らかとなっており、各線に乗り入れている東武鉄道所属車両への対応が必要な状況です。
日比谷線系統では、70000系で対応が迫られますが、現時点で目立った動きは確認されていません。
半蔵門線系統では、2023年から引き続き、50000系50050型の列車情報管理装置更新*2(Synaptara化)に合わせた保安装置箱の変更などが進められています。なお、ATP無線機等は依然として確認されておらず、CBTC対応は別ステップで行われることが窺われる状況が続いています。
4.西武鉄道
4.1 施策全般
2024年3月10日夜間より、西武多摩川線にて西武式CBTCシステムの走行試験が始まりました。2025年1月まで行われる予定としています。
なお、走行試験に関するニュースリリースにおいても、次世代信号システムの方式は実証試験と鉄道各社の動向などを踏まえて決定するとしており、次世代信号システムにどのような方式が採用されるのかが今後の焦点となります。
4.2 地上設備
西武多摩川線での走行試験に向けた地上設備の整備は2023年中におおむね完了しており、2024年は目立った変化は見受けられませんでした。
4.3車上設備
2024年に入って、101系2編成にCBTC車上装置が搭載され、順次西武多摩川線に送られました。
5.伊豆箱根鉄道
5.1 施策全般
これまで国土交通省主体の実証試験が行われてきた大雄山線に、2031年度地方鉄道向け無線式列車制御システムを導入することを決定したことが公表されました。フィールド試験で用いられた設備を生かすことができる点ではメリットがあるものの、導入時期が約7年後を想定している点が特徴的です。
5.2 地上設備
2024年は目立った変化は見受けられませんでした。
5.3 車上設備
新たに車上設備を搭載した車両は確認されておらず、5000系2編成に搭載されています。
なお、今年秋に報道公開された際の写真から、先頭車両屋根上のアンテナに加えて、乗務員室内前面窓にパッチアンテナのような円形の物体が据え付けられていることが見て取れます。日本信号SPARCSでは先頭車両の屋根上に無線アンテナを設けている海外事例がありますが、伊豆箱根鉄道の親会社である西武鉄道のCBTC実証試験では、乗務員室内前面窓にパッチアンテナを設けていました。一般的に、屋根上にアンテナを設けることは無線環境としては良好な一方、台座設置や配線の引き通しのため屋根に穴あけが必要で、腐食や雨漏り等の要因になることも考えられます。本導入時の車上アンテナがどのような形態になるのかという点は今後注目されそうです。
6.おわりに
本記事では、2024年の首都圏における無線式列車制御システムに関連する動きの内、東急電鉄、東武鉄道、西武鉄道、伊豆箱根鉄道の4事業者についてまとめました。
2025年は新規稼働区間は無い見込みですが、引き続き各社で地上・車上設備ともに準備が進むことが見込まれます。また、他の関東民鉄各社にも同様の動きが広まるのかが注目されます。
◇◇
本連載の調査にあたり、限られた時間の中で可能な限り多くの資料を参照するよう努めておりますが、見落としや転記ミスといった手落ちがあるかもしれません。また、平易な説明を重視するとともに文量等の観点から割愛している事柄があります。鉄道信号方面の造詣が深い方におかれましてはその点ご容赦ください。
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―本連載一覧―
首都圏における無線式列車制御システムの動き2024 ①JR東・メトロ・都交
首都圏における無線式列車制御システムの動き2024 ②関東民鉄(本記事)
参考文献
*1 中邨、中田、ほか:「2020系/6020系車両向けATC車上装置の開発」 、鉄道サイバネ・シンポジウム論文集 55、522、(2018.11)
*2 星野、石原、ほか:「東武鉄道50000系転属車Synaptraの開発」、鉄道サイバネ・シンポジウム論文集 58、508、(2021.11)
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