列車無線デジタル化に伴う車両改造が落ち着きつつある2022年から2023年にかけての年末年始ですが、今後同じ規模で所属車両全てに車両改造を要する事象として保安装置の更新が考えられます。この連載では、これまでの各社局・路線における保安装置の更新時期に焦点を当てることで、車両動向の予測に寄与することを目的とします。本記事では東京都心部の地下鉄について扱います。
1.はじめに
本連載ではATSやATCといった列車運転上必要不可欠なATP機能を持つ運転保安装置の更新時期に焦点を当てます。記事中で頻出するため、読み進める上で最低限おさえていただきたい略称は下記の通りです。なお、本記事は各装置の機能面について論ずることを主たる目的としておりませんので割愛させていただきます。
ATS:Automatic Train Stop(自動列車停止装置)
ATC:Automatic Train Control(自動列車制御装置)
ATP:Automatic Train Protection(自動列車防護装置)
CBTC:Communications-Based Train Control(無線式列車制御)
WS:Wayside Signal(地上信号)
CS:Cab Signal(車内信号)
2.更新時期一覧
今回は東京都心部を走る東京メトロと都営地下鉄の2社局13路線の保安装置の更新時期をガントチャートの要素を取り入れた年表にまとめました。以下に示します。
※上記年表画像の二次利用はご遠慮ください。また、さらなる創作(動画制作等)をなさる場合、お示しした各参考文献を参照していただくことを強くお勧めいたします。
3.考察
東京メトロ
保安装置の更新周期は、各ATC化後でいえば概ね25年が一つの基準のように読み取れます。速度向上を伴うダイヤ改正前や延伸開業等のタイミングで全線一括切り換えの場合もあれば、有楽町線のように同一路線でも区間によって更新時期に時間差がある場合もあります。路線ごとの更新順序については、直近の更新時期や公表されている今後の計画・調達情報で見えている範囲では、銀座線・南北線→丸ノ内線→日比谷線→半蔵門線→東西線という順序のようです。2022年末時点で今後が明らかになっていないのは千代田線・有楽町線・副都心線の3路線です。相互直通先の動向とも関係するため断定できないものの、2022年末時点で使用している保安装置の使用開始時期を鑑みれば、千代田線→有楽町線・副都心線と続くことが予測できます。
車両面では、CBTC化が近い丸ノ内線2000系や車両検査の都合で丸ノ内線に出入りする銀座線1000系、次点でCBTC化が計画されている日比谷線13000系においてATP車上無線装置(車上アンテナ)や乗務員室内のスイッチ類の整備が進んでいます。最近では、2133F以降の2000系新造車両において製造時点から新しい速度検知装置「DRSS(Doppler Rader Speed Sensor)」が設置されているほか、ATP関連とみられるソフトウェアをローディングしたことを示すラベルが貼付された編成も現れました。2022年末時点でATP車上アンテナが未搭載の編成も存在する2000系も含め、ATP車上装置・ATP車上無線装置に関連する機器追設・ソフト改修が各形式でさらに広がっていくことが予測できます。
都営地下鉄
保安装置の更新周期が東京メトロよりも長いのが特徴で、浅草線の1号型ATSでいえば1960年の使用開始から50年以上使用していたことになります(個々の機器を50年使っていたということではなく、機能が同一のシステムを長年使っていた、という趣旨)。開業当時から相互直通先と仕様共通化を図っていたことも関係しているとみられ、今後ここまで長期間使用することは考えにくいといえます。次点で長期間同じ保安装置を利用しているのは大江戸線ですが、東京都交通局経営計画2022によれば2027年度にCBTC(日本信号製CBTC「SPARCS」(PDF))使用開始とありますので先が見えています。今後の更新順序については、大江戸線以外の3路線は相互直通先の動向とも関係するため断定できないものの、2022年末時点で使用している保安装置の使用開始順でいえば大江戸線→三田線→新宿線→浅草線の順になると予測できます。
4.まとめ
今回は東京都心部の地下鉄各路線の保安装置更新時期についてまとめ、大まかな更新周期や順序を確認できました。他の民鉄などと比べると公開情報も多く、次期更新(CBTC化)が見えている路線が複数あることから、今後の車両改造等の動向が比較的予測しやすいといえます。
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本連載の調査にあたり、限られた時間の中で可能な限り多くの資料を参照するよう努めておりますが、見落としや転記ミスといった手落ちがあるかもしれません。お気づきのことやフィードバックがもしございましたら本記事コメント欄にお寄せください。
5.参考文献
*1:鉄道事業者公式資料(報道発表資料、年譜、会社要覧、安全報告書、広報誌等)
*2:電気車研究会「鉄道ピクトリアル」各号
*3:日本鉄道運転協会「運転協会誌」各号
*4:日本鉄道技術協会「JREA」各号
*5:日本鉄道サイバネティクス協議会「サイバネティクス」各号、シンポジウム論文
*6:日本鉄道電気技術協会「鉄道と電気技術」各号
*7:鐵道界図書出版社「鐡道界」各号
*8:各社技報(該当する企業の略称を併記)
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