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関東大手民鉄・地下鉄の保安装置更新時期①大手民鉄編

施設動向
関東大手民鉄で唯一JR東日本のATACSを搭載する相鉄12000系
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列車無線デジタル化に伴う車両改造が落ち着きつつある2022年から2023年にかけての年末年始ですが、今後同じ規模で所属車両全てに車両改造を要する事象として保安装置の更新が考えられます。この連載では、これまでの各社局・路線における保安装置の更新時期に焦点を当てることで、車両動向の予測に寄与することを目的とします。本記事では関東大手民鉄8社について扱います。

1.はじめに

本連載ではATSやATCといった列車運転上必要不可欠なATP機能を持つ運転保安装置の更新時期に焦点を当てます。記事中で頻出するため、読み進める上で最低限おさえていただきたい略称は下記の通りです。なお、本記事は各装置の機能面について論ずることを主たる目的としておりませんので割愛させていただきます。

ATS:Automatic Train Stop(自動列車停止装置)
ATC:Automatic Train Control(自動列車制御装置)
ATP:Automatic Train Protection(自動列車防護装置)
CBTC:Communications-Based Train Control(無線式列車制御)

2.更新時期一覧

今回は関東大手民鉄8社の保安装置の更新時期をガントチャートの要素を取り入れた年表にまとめました。以下に示します。

※上記年表画像の二次利用はご遠慮ください。また、さらなる創作(動画制作等)をなさる場合、お示しした各参考文献を参照していただくことを強くお勧めいたします。

3.考察

公民鉄の保安装置をめぐっては、1967年に当時の運輸省から発せられた通達「自動列車停止装置の設置について」により速度照査機能付きのATSが広く設備されたほか、2006年の省令改正で機能見直しが進んだという歴史的経緯を踏まえる必要があります。※1
最初のATS設置という観点では、通達に従い1968年から1970年の間に使用開始と各社足並みを揃えてスタートしていることが読み取れます。以降は、機能追加を伴う更新を行った西武や各路線でATC化を進めた東急以外は大きなシステム変更がない穏やかな時期が続きます(1号型ATSの車上装置のように、機器のマイナーチェンジは各システムであった可能性が高いです)。各社で対応が分かれたのは2000年代に入ってからです。ATSの機能向上という選択をしたのは東武(一部除く)、西武(一部除く)、京成、小田急、京急、相鉄と大半です。一方、東武(一部)、京王、東急(一部)はATC化を選びました。
別の観点で、更新周期に関しては最短16年程度で、20~25年程度が主流とみられますが、同一のシステムを長期間使用していた事業者が多く、現在使用しているシステムをこの先どの程度使用し続けるかは予測しづらい状況です。直近の更新における切り換え方をみると、全線一括で切り替えたのは相鉄くらいで、他の事業者は区間を分けて数日から数年がかりで更新していったことが窺えます。同じ事業者内でも区間によって使用開始からの経過時間に差があることに注意が必要です。
今後は、JRや地下鉄の動向を踏まえながら、CBTC化による機能向上や設備のランニングコスト減を図っていくのがトレンドになることが見込まれます。直近の更新時期を振り返ると、2009年頃から2016年頃が切り替えの山になっていると読み取れます。地下鉄での更新時期も参考に、20~25年程度で現在使用している保安装置を更新すると仮定すれば、更新時期の早い事業者・路線では2030年代初頭に次の更新時期が到来すると予測できます。
仮に次期保安装置としてCBTC化を進める鉄道事業者が現れた場合、既存装置の枠組みでない方法で列車制御を行うことになるため、相当期間技術検証を行い安全性・信頼性を確認するとみられます。実用する次期保安装置に対応するための車両の改造期間を鑑みると、技術検証に伴う現車を使った試験等の動きは早ければ2020年代前半にもでてくるのではないでしょうか。実際、東急大井町線では2020年頃にCBTC関連の試験と思われる仮設装置を設置・搭載していたことも明らかになっています(※参考:Kamatetsuのブログ「大井町線CBTCについて」)。このような観点で、現車試験や地上設備の変化といった動向を見守ることが今後も重要になります。

4.まとめ

今回は関東大手民鉄8社の保安装置更新時期についてまとめ、これまでの大まかな更新時期について確認できました。次期更新に向けた話はまだ見えていないのが2022年末時点の状況ですが、これまでの更新時期を掴むことで、次期更新時期やそれに伴う車両動向の予測にも繋がると思います。
◇◇
本連載の調査にあたり、限られた時間の中で可能な限り多くの資料を参照するよう努めておりますが、見落としや転記ミスといった手落ちがあるかもしれません。お気づきのことやフィードバックがもしございましたら本記事コメント欄にお寄せください。

5.参考文献

※1:中村英夫「鉄道信号・保安システムがわかる本」, オーム社, (2013.05)
*1:鉄道事業者公式資料(報道発表資料、年譜、会社要覧、安全報告書、広報誌等)
*2:電気車研究会「鉄道ピクトリアル」各号
*3:日本鉄道運転協会「運転協会誌」各号
*4:日本鉄道技術協会「JREA」各号
*5:日本鉄道サイバネティクス協議会「サイバネティクス」各号、シンポジウム論文
*6:日本鉄道電気技術協会「鉄道と電気技術」各号
*7:鐵道界図書出版社「鐡道界」各号
*8:各社技報(該当する企業の略称を併記)

コメント

  1. […] 関東大手民鉄・地下鉄の保安装置更新時期①大手民鉄編 関東大手民鉄・地下鉄の保安装置更新時期②地下鉄編 […]

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