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関東大手民鉄・地下鉄の保安装置更新時期③相互直通編

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施設動向
10周年を迎える副都心線等と東横線・MM線との相互直通運転
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列車無線デジタル化に伴う車両改造が落ち着きつつある2022年から2023年にかけての年末年始ですが、今後同じ規模で所属車両全てに車両改造を要する事象として保安装置の更新が考えられます。この連載では、これまでの各社局・路線における保安装置の更新時期に焦点を当てることで、車両動向の予測に寄与することを目的とします。本記事では東京都心部の地下鉄と郊外に延びる民鉄における相互直通運転の系統ごとに情報をまとめます。

1.はじめに

本連載ではATSやATCといった列車運転上必要不可欠なATP機能を持つ運転保安装置の更新時期に焦点を当てます。記事中で頻出するため、読み進める上で最低限おさえていただきたい略称は下記の通りです。なお、本記事は各装置の機能面について論ずることを主たる目的としておりませんので割愛させていただきます。

ATS:Automatic Train Stop(自動列車停止装置)
ATC:Automatic Train Control(自動列車制御装置)
ATP:Automatic Train Protection(自動列車防護装置)
CBTC:Communications-Based Train Control(無線式列車制御)

WS:Wayside Signal(地上信号)
CS:Cab Signal(車内信号)

2.系統毎の更新時期一覧と考察

ここまで、東京都心部の地下鉄と関東大手民鉄8社の保安装置の更新時期についてまとめてきました。ただ、機械的に各社局・路線を並べていますので相互直通先との関係性を見るのには不適だったと思います。
今回は一部の相互直通運転実施路線について、運転系統毎に並べることで関係性を可視化することを目的とします。なお、JR線や大手民鉄以外の路線については今回調査・製作しておりませんので予めご了承ください。

浅草線系統

開業当初から3社局共通仕様の保安装置を使用しているのが特徴の浅草線系統。これまでの歴史的経緯を踏まえれば、具体的な時期を見通すことは難しいものの、次期更新時も同様に共通仕様の保安装置をほぼ同時期に使用開始することが予測できます。

 

日比谷線系統

各社で異なる保安装置を使用している日比谷線系統。2023年現在相互直通運転を行っている東武と日比谷線では更新時期が異なり、日比谷線CBTC化後も複数の保安装置を搭載する必要があります。2026年度のCBTC化に向けて、東京メトロ13000系についてはATP車上無線装置(車上アンテナ)の設置が進んでいますが、東武70000系については関連機器設置の動きが今のところ確認されておらず、今後の動向が注目されます。
別の観点で、車両検査のため東京メトロ車は東急線内にも入線しますが、回送経路の東横線や田園都市線で保安装置更新が計画あるいは示唆されており、こちらも今後何らかの対応が必要になるとみられます。特に東横線は報道通りであればデジタルATC化が迫っています。システム概要が明らかでないので現行の車上装置と互換性を有するのかといった詳細が不明ですので、どういった対応をとるのか今後の動向が注目されます。

 

有楽町・副都心・南北・三田線系統

今年3月に相鉄・東急新横浜線開業を迎えるこの系統では、東急車で保安装置対応が進んでいます。東急は現状唯一この系統の関係全社局に車両が乗り入れる見込みであるほか、自社線内でも東横線デジタルATC化を抱えており対応すべき事柄が膨大であることが窺えます。
更新時期については各社局で時期に差異があります。純粋に更新時期が比較的近いと読み取れるのは東武と相鉄、西武と有楽町・副都心線、三田線と東急目黒線です。南北線と東横線は他社局と比べて更新時期が著しくずれており、当面は異なる保安装置を使用せざるを得ない状況が継続するものとみられます。

 

千代田線系統

直近の更新時期を比べると10年ほど差が開いており、どちらかが今後も長期間使うもしくは短期間で更新するという動きが無い限りは別システムの保安装置を使用し続ける状況が継続するものとみられます。本連載の枠外ですが、JR常磐緩行線の保安装置更新への対応も必要とみられます。

 

都営新宿線系統

直近の更新時期を比べると5年ほど差が開いています。前回の連載で都営地下鉄は比較的長く使用する傾向があると記しましたが、こうした流れがあるのであれば次期更新時に京王と足並みを揃えて更新することも視野に入る時間差であるといえます。とはいえ、現時点では具体的な次期更新時期に関する情報はなく、暫くは穏やかな時期が続きそうです。

 

半蔵門線系統

東京メトロの視点では丸ノ内線・日比谷線に続き半蔵門線がCBTC化路線として準備が進められていることが窺えるほか、東急の視点では田園都市線の次期保安装置としてCBTCが視野に入っているとの報道があります。これらのことから、この2社に関しては2020年代後半以降の比較的近い時期にCBTC化する可能性が高いと予測できます。具体的な次期更新時期が見えていないのは東武ですので、今後東武に関係する動きがなければ、東京メトロ・東急の2社が先行してCBTC化するという構図になるものとみられます。
車両面では東京メトロ08系更新車で運転台にATPに関する表示灯が設置されたとの報告があるほか、東京メトロ18000系や東急2020系といった近年新造された車両はCBTC準備対応済とされています。これらのことから、関連する車両動向も2020年代半ばにかけて活発化する可能性が考えられます。

※上記の各年表画像の二次利用はご遠慮ください。また、さらなる創作(動画制作等)をなさる場合、お示しした各参考文献を参照していただくことを強くお勧めいたします。

3.インターオペラビリティについて

次期更新時にCBTCシステムを導入する場合に問題になりえるのが装置の相互運用性(インターオペラビリティ)です。相互直通運転を実施している各社で互換性のない異なる保安装置が採用された場合、各保安装置に対応する車上装置を搭載する必要が生じ、艤装スペースの確保や保守性で問題となります。

こうした課題について、東京メトロは2016年1月のCBTC導入に関する最初の発表で機能仕様を公開する旨を明らかにしていたほか、2018年に技術誌へ下記のようなコメントを寄せています。

“2016(平成28)年から,鉄道事業者として無線式列車制御システムに必要な基礎機能について,相互直通運転を実施している関東の鉄道事業者を中心に情報の共有を図っている.今後は,本システムの当社他路線展開を見据え,各鉄道事業者へ早期に技術的情報を提供し,本格的な共通仕様化について協議を推進していきたいと考えている.”
小川:「東京地下鉄丸ノ内線無線式列車制御システムの概要」, 鉄道車両と技術, No.257, p.16, (2018.04)

また、国土交通省は複数の鉄道事業者も交えて、2019年9月から2021年2月にかけて「都市鉄道向け無線式列車制御システム(CBTC)仕様共通化検討会」を設け、インターフェースと無線回線設計のガイドラインを取りまとめました。2022年12月には、JR東日本と東京メトロが無線式列車制御システムの標準仕様の検討などで協力することを目的とした覚書を締結したことを公表しました。
2022年末時点でのこれらの動きより、路線事情や運転取扱への考え方の違い等から各社で異なるメーカーのCBTCシステムが導入されたとしても、一定の仕様共通化が図られたインターオペラビリティのある装置にできる土壌が整いつつあるといえます。

4.まとめ

今回は東京都心部の地下鉄と相互直通している関東大手民鉄との保安装置更新時期の関係を確認しました。また、相互運用性(インターオペラビリティ)という課題とこれまでの動きについて簡単に振り返りました。鉄道事業者間の協力関係や連携した取り組みは今後も表面化していく可能性があり、車両動向に影響を与える一因になる可能性を秘めていることから、注視していく価値のある事柄と考えられます。
◇◇
本連載の調査にあたり、限られた時間の中で可能な限り多くの資料を参照するよう努めておりますが、見落としや転記ミスといった手落ちがあるかもしれません。お気づきのことやフィードバックがもしございましたら本記事コメント欄にお寄せください。

―本連載一覧―
関東大手民鉄・地下鉄の保安装置更新時期①大手民鉄編
関東大手民鉄・地下鉄の保安装置更新時期②地下鉄編
関東大手民鉄・地下鉄の保安装置更新時期③相互直通編
関東大手民鉄・地下鉄の保安装置更新時期④
関東大手民鉄・地下鉄の保安装置更新時期⑤

5.参考文献

*1:鉄道事業者公式資料(報道発表資料、年譜、会社要覧、安全報告書、広報誌等)
*2:電気車研究会「鉄道ピクトリアル」各号
*3:日本鉄道運転協会「運転協会誌」各号
*4:日本鉄道技術協会「JREA」各号
*5:日本鉄道サイバネティクス協議会「サイバネティクス」各号、シンポジウム論文
*6:日本鉄道電気技術協会「鉄道と電気技術」各号
*7:鐵道界図書出版社「鐡道界」各号
*8:各社技報(該当する企業の略称を併記)

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