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首都圏における無線式列車制御システムの動き2024 ①JR東・メトロ・都交

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施設動向
2024年12月7日よりCBTCが使用開始となった東京メトロ丸ノ内線
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首都圏のJR・公民鉄では次期信号保安装置として無線式列車制御システム導入を目指す動きが相次いでいます。全2回の本連載では、2024年の動きを簡単に総括することで、在来線向け無線式列車制御システムをめぐる現状を整理し、記録に残すことを目的とします。本記事では、JR東日本・東京メトロ・都営地下鉄の動向を総括します。

1.はじめに

本記事では、無線式列車制御システムに関する動向の内、JR東日本・東京メトロ・都営地下鉄の3事業者に焦点を当てます。
2024年は東京メトロ丸ノ内線でCBTCシステムが使用開始となりました。このほか、各社局ではアンテナ等の地上・車上設備の設置が継続して続けられています。以下に各社の動向をまとめます。

※本文中で頻出する保安装置関係の略語は下記の通りです。なお、CBTCとATPの関係についてはこちらをご覧ください。
ATS:Automatic Train Stop(自動列車停止装置)
ATC:Automatic Train Control(自動列車制御装置)
ATP:Automatic Train Protection(自動列車防護装置)
CBTC:Communications-Based Train Control(無線式列車制御)
ATACS:Advanced Train Administration and Communications System(JR東日本の無線式列車制御システム)
SPARCS:Simple-structure and high-Performance ATC by Radio Communication System(日本信号の無線式列車制御システム)

2.JR東日本

2.1 施策全般

ATACSの導入区間等についてはこれまでと変化なく、次期導入線区は京浜東北線(大宮・東神奈川間)山手線とされています。

山手線・京浜東北線一部区間にATACS導入(令和10~13年)
本日、2028~2031年頃を目標に、山手線・京浜東北線(大宮~東神奈川)を対象にATACSを導入・ATOを高性能化する事が発表されました。将来のドライバレス運転(GoA3)の実現を目指した開発を進める為、これらが先行して整備されるようです

2024年11月に開催された日本鉄道サイバネティクス協議会主催のシンポジウム投稿論文*1にて、京浜東北線の切換について下記の通り言及されています。

また、この先京浜東北線ではD-ATCからATACSへの段階的な切換を計画していることから、D-ATC区間とATACS区間の境界駅では、新旧システムの切換がシームレスに行われる必要がある。

また、ATOで運転する区間においても、D-ATC区間ATACS区間それぞれで運用を開始する段階的な移行を計画しており、D-ATC区間からATACS区間を跨って使用することになる。そのため、速度信号とトラポンによる位置補正地上子の情報をD-ATCとATACSの双方に分配し、それぞれの車上装置で同時に処理を行うことで、シームレスな切換を実現する。

現在、山手線/京浜東北線の全編成に対して、順次統合形車上装置を搭載する改造工事を進めている。改造工事完了後に乗務員訓練等を経て全線でATO運転を開始する計画である。

以上のことから、少なくとも京浜東北線(大宮・東神奈川間)は過渡期においてD-ATC区間とATACS区間が並存することになります。ATACSの先例である仙石線や埼京線では、対象区間は一括切換を行ってきたことから、段階的な切換は京浜東北線が初めてとなる見込みです。
また、ATOについては保安装置更新の動きとは別に、車両の改造工事完了後に準備が出来次第使用開始する予定であることが窺えます。

2024年6月公開のIR情報から、2023年度の上記線区への投資額について明らかになっています。過年度の状況と合わせると以下のようになっています。

2.2 地上設備

昨年の本連載においても取り上げましたが、工事の請負企業の企業情報から、一部の地上設備の工事は発注済みであるとみられます。この内、大宮・川口間については、2028年度中の完工を目指す計画と見て取れるIR資料が新たに公表されています。

福島駅アプローチ線電気工事は2025年度中に完了+他
本日公表された日本電設工業の決算説明会資料から、新幹線福島駅アプローチ線の電気工事が2025年度中に完了することが明らかになりました。2020年3月、E8系の導入とともに2026年度末に使用を開始すると発表されています。そのほか、京浜東北線
https://www.densetsuko.co.jp/01investor/library/pdf/tanshin/2024/20240527_kessansiryo.pdf#page=39

このほかでは、現時点で明確にATACS向けとみられる設備等は確認できていません。外部から見える範囲で分かる動きで今後の注目されるのは▽パンザマストの建設や▽LCXケーブル架設、▽これらに係る既存設備の支障移転などが考えられます。

2.3 車上設備

昨年から引き続き、京浜東北線E233系1000番台と山手線E235系0番台へ、ワンマン設備の設置と並行してATACS関係設備の搭載が進められています。
また、前述した参考文献*1において、ATACS機能を包含したATC/ATO統合形車上装置の詳細が判明しています。▽本体箱のサイズを各形式で統一▽ATO制御部などでは複数メーカーのものを取付できるよう互換性を持たせたなどの特徴を有するとしています。同装置のシステム構成図を下図に示します。

3.東京メトロ

3.1 施策全般

去る12月7日始発より、丸ノ内線にてCBTCシステムの使用が開始されました。2016年1月の導入公表から9年弱のことでした。

2024年12月7日(土)丸ノ内線の全線において無線式列車制御システム(CBTCシステム)を導入・使用開始しました|東京メトロ
東京メトロのニュースリリースをご紹介します。
東京メトロ丸ノ内線 CBTC使用開始
12月7日、東京メトロ丸ノ内線でCBTC(無線式列車制御)システムの使用開始が確認されました。確認された運転台の写真では、従来速度計上部にあった車内信号の緑色灯・赤色灯の表示部が消え、停止限界など状態を示す表示部に置き換わっています。同線の

なお、このほかに新たな導入線区の拡大等は公表されておらず、次期導入線区は日比谷線(2026年度)、その次に半蔵門線(2028年度)とされています。

3.2 地上設備

丸ノ内線関係では、CBTCシステム使用開始に合わせて運転諸標等の変更が行われました。

日比谷線関係では引き続き地上無線局の設置等が進められ、今年に入ってからは南千住・北千住の地上区間でも無線局が設置された様子が目撃されています。

半蔵門線関係では、2024年12月下旬現在、走行中の列車内から確認できる範囲では変化は見受けられませんでした。

3.3 車上設備

丸ノ内線関係では、1000系・2000系にATP関連機器の設置やソフトウェアのローディング、列車IDシールの貼付が確認されました。

東京メトロ2101F~2132F DRSS設置+ATP準備対応S/Wローディング済
2024年度中の運用開始に向け準備が進められている東京メトロ丸ノ内線CBTC(無線式列車制御)システムに関連して、2000系の一部編成で未設置だった関連機器の搭載と準備対応ソフトウェアがローディング済みであることを示すラベル表示を確認しまし
東京メトロ2000系に「列車ID」ステッカーが貼付される
東京メトロ2000系の一部編成において、乗務員室扉の落とし窓上部に「列車ID」と称するステッカーが貼付されていることが本日までに確認されています。波及範囲は現時点では不明ですが、2120Fと2124Fで確認されています。表示内容は▽事業者:
東京メトロ1000系に「ATP準備対応S/Wローディング済」表示
本日までに東京メトロ1000系複数編成の運転台に「ATP準備対応S/Wローディング済」と書かれたラベルが貼付されていることを確認しました。過去、丸ノ内線2000系においても、2022年年末頃から2024年春頃まで同様のラベル表示がありました

CBTCシステム使用開始に伴うATP化にあたっては、運転台の表示部が変化しました。表示灯の内容のほか、モニタ表示では支障要因の表示や先頭車の在線位置、停止限界までの距離などが新たに表示されるようになりました。

このほか、CBTCに対応したATOの開発・改修が行われたことが、2024年11月に開催された日本鉄道サイバネティクス協議会主催のシンポジウム投稿論文*2にて判明しています。

日比谷線関係では、引き続き13000系にATP車上無線局の設置が進められています。12月下旬現在、13141Fまで設置されたことが確認されています。また、本稿執筆時点における匿名投稿の運用情報サイトの履歴より、13142Fにも設置済み、13143Fが入場中の可能性があります。このことから、同形式でATP車上無線局が未設置なのは13144Fの1編成のみと推定され、この施工ペースで推移すれば、2024年度中(2025年3月末まで)に全44編成にATP車上無線局が設置済みとなることが予想されます。

4.都営地下鉄

4.1 施策全般

新たな導入線区の拡大等は公表されておらず、大江戸線への導入に向けた準備が進められています。
この準備状況について、(一社)日本地下鉄協会の信号通信部会*3において報告されています。主な進捗として▽システムの詳細設計、安全検証、実施基準改定等が完了▽運転保安設備の変更認可を申請したとされています。

4.2 地上設備

大江戸線では引き続き地上設備の設置が進められています。

先の報告資料*3においても、▽地上設備の一部機器の製造完了や▽無線設備や地上子の設置を進めているとされています。

4.3 車上設備

引き続き、既存車両に対する車上装置搭載工事が進められています。

また、2024年10月に出場した12-901Fでは、新造当初から先頭車両車端部にCBTC車上装置の機器室が設けられ、当該箇所の側窓が無い仕様となりました。(2024年2月に出場した12-891Fは従来通りの仕様)

都営大江戸線12-901F 日車出場
10/4、都営地下鉄大江戸線12-600形(5次車)12-901Fが日本車輛製造豊川製作所を出場し、甲種輸送されています。本年度は1編成導入となる見込みで、操舵台車試験車両となります。2026年度までに導入する12-600形9編成(5次車)

5.おわりに

本記事では、2024年の首都圏における無線式列車制御システムに関連する動きの内、JR東日本、東京メトロ、都営地下鉄の3事業者についてまとめました。
2025年は新規稼働区間は無い見込みですが、今後の使用開始に向けて、引き続き各社で地上・車上設備ともに準備が進むことが見込まれます。
◇◇
本連載の調査にあたり、限られた時間の中で可能な限り多くの資料を参照するよう努めておりますが、見落としや転記ミスといった手落ちがあるかもしれません。また、平易な説明を重視するとともに文量等の観点から割愛している事柄があります。鉄道信号方面の造詣が深い方におかれましてはその点ご容赦ください。
お気づきの点やフィードバックがございましたら、本記事のコメント欄にお寄せください。
※本記事内各画像の二次利用はご遠慮ください。また、さらなる創作(動画制作等)をなさる場合、お示しした各参考文献を参照していただくことを強くお勧めいたします。

―本連載一覧―
首都圏における無線式列車制御システムの動き2024 ①JR東・メトロ・都交(本記事)
首都圏における無線式列車制御システムの動き2024 ②関東民鉄

参考文献

*1 北原、横山、ほか:「ATC/ATO統合型車上装置の開発 : D-ATCからATACSへの移行性を考慮しつつ、高性能なATOに対応した車上装置の開発」、鉄道サイバネ・シンポジウム論文集 61、517、(2024.11)

https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I033776230 (国立国会図書館オンライン「NDL-OPAC」の資料情報)

*2 池淵、遠藤、ほか:「丸ノ内線CBTC機能に適応したATO制御の開発と成果」、鉄道サイバネ・シンポジウム論文集 61、519、(2024.11)

 (国立国会図書館オンライン「NDL-OPAC」の資料情報)

*3 日本地下鉄協会:「「地下鉄施設の保守、維持等に関する研究会(第5回信号通信部会)」を開催」、地下鉄短信、No.619、(2024.12)
http://www.jametro.or.jp/upload/topics/hRqwbKozxYUG.pdf(2024年12月31日参照)

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