越後線・弥彦線から撤退した新潟車両センターのE127系0番台ですが、引退判明直前から『鎌倉車両センター中原支所に転出』『南武支線で運用』という趣旨の噂が公然と流れています。
事実なら衝撃的な話ですが、関連する事項から考察します。
(はじめに)新潟撤退までは確実なE127系0番台
えちごトキめき鉄道へ譲渡されずに残留し、越後線・弥彦線で運用されていた新潟車両センターのE127系0番台の2編成(ニイV12編成・ニイV13編成)ですが、数ヶ月前から、2022年3月12日のダイヤ改正前日を最後に、新潟エリアでの営業運転を終えるとの噂がありました。
引退車両を題材とした限定商品に起用される、E127系所定運用を代走できるE129系が増備される、そのE129系が実際直前に運用を代走する、などと引退を裏付けるような動きが複数見られる中、ダイヤ改正当日の3月12日、JR東日本公式HPのE127系の情報が更新、運行区間から越後線・弥彦線が削除されたことで、引退は事実だった事が明らかとなりました。
この時点でE127系0番台の撤退は確定しましたが、現車は機器更新から4年と数ヶ月程度で、機器更新車両としては比較的経年が浅い事から、今後は解体ではなく転用によって活用されるとの見方が有力です。
当初は引退の有無、引退確定後は今後の活用法と、E127系0番台が注目される最中、今後の動きとして南武支線への転入という噂が流れ始めました。
転属を肯定する事項
一聞すると信じがたい話に思えるE127系の南武支線転属ですが、関連事項を照らし合わせると、意外にも「南武支線に車両導入が求められる理由」「その導入車両にE127系0番台が選定される理由」それぞれが十分見出せるように思います。
老朽化が深刻な205系1000番台
南武支線への車両導入を強く肯定する要素として、現行の205系1000番台の近況が挙げられます。
記憶に新しい事として、昨年にナハ浜4編成が回送列車で南武線本線を走行中に故障を起こし、大きな輸送障害を発生させています。
これと前後関係が成立する形で、労組資料(参考※鍵)では205系1000番台のSIVの故障を受けて、同番台の運用を同1100番台に置き換えることが窺える内容が示され、205系1000番台が不調である事実と、同番台の稼働率を下げるような動きが実際に行われていることが分かりました。
輸送障害を引き起こした老朽車両の取替を急ぐ例は珍しくなく、有名な所では103系の故障が頻発した事で急遽計画・製造された209系500番台が挙げられます。
老朽化が深刻で、輸送障害という悪い実績を既に作った205系1000番台については、可能であれば速やかに淘汰したい、それが困難であれば出来る限りの走行機会抑制を実施したいとしても不思議な話ではありません。
情勢が壁になる車両新造
車両導入の必要性だけなら車両を新製するという選択肢があります。
最近では2両編成の組成・ワンマン運転が可能な4扉車両のE131系が製造されており、同形式が他線区の205系を置き換えている近況からも、可能であれば南武支線の205系もE131系の新製で置き換えてしまうのが理想的な選択肢で、実際に計画されていてもおかしくはないように思えます。
しかし、現在車両工場では横須賀・総武快速線E217系を置き換える為にE235系1000番台が製造されています。
それ以外でも、労組資料で仙石線向けのE131系が示されており、さらに所属区が共通する鶴見線も、近い将来の代替車両導入が駅掲示から示されていることから、これらの車両の製造が既に先に計画されている可能性があります。
無視できないのは、これら線区の従来車両(E217系・205系1100番台・同3100番台)も経年を迎えており、既に輸送障害を引き起こした車両もあることで、仮に計画変更でこれらの置き換えを後回しにしても、 205系1000番台の継続使用と同等以上のリスクは引き続き残る事になります。
また、昨今の半導体供給不足の影響で鉄道車両の製造自体も遅れが発生し得ることが労組資料(参考※鍵)から読み取れ、実際に一度途絶えたE217系の装置・車体保全が再開される(≒E235系の製造が遅れ、期限までに置き換えられない可能性があった)など、昨今の情勢が現在進行形の車両新造計画にも影響を与えていると考えられる動きもあります。
現在の計画すら予定通りに進められない状況では、単純に計画を変えて新製を急ぐ選択肢自体が難しい筈です。
新製は理想的な手段ではあるものの、他線区の事情や昨今の情勢によって、既にそれが現実的な話では無くなっているように思います。
コストを散乱させる他の車両転用
車両新製が困難であれば、E127系とは別の車両を転用する選択肢はどうでしょうか。
経年を考えると、205系より新しい新系列世代の車両が選択肢に入るでしょう。しかし、近年から余剰が出ているE217系は、無改造で2両編成を組む事ができず、制御付随車の電動車化(電装)、或いは中間電動車の制御車化という実績のない改造が必要で、新たな設計コストやそれを実施する際の大かがりな改造コストが見込まれます。
先頭車化の実績がある車両として209系(2100番台)の余剰も発生していましたが、実績がある訓練車と営業用の車両では別の設計余地がある事、大掛かりな改造自体は免れない事から、残存していたとしてもE217系と大きく変わらない規模の課題がある選択肢だったでしょう。
それを裏付けていた動きかは定かではありませんが、余剰車は伊豆急に譲渡された車両を除いて、既に廃車・解体されてしまいました。
南武支線に適合するE131系を捻出する為、E127系を千葉エリアに投入(E131系0番台を捻出)しても、南武支線に加えて千葉エリアの乗務員等への訓練や、そこで運用する為のE127系安全確認カメラ取付改造、又はカメラを用いないワンマン運転の訓練が求められ、別の地区にもコストが掛かってしまいます。
先に言及した仙石線向けのE131系や鶴見線向けの代替車両を暫定的に2連として南武支線で暫定使用する選択肢も、本来置き換える205系を予定より長く使用することになり、故障・輸送障害のリスクが増えること(新製計画変更と同様)、余剰となる中間車を暫く保留車として保管しなければならないなど、
考えられる他の車両転用は様々な場面でコストを散乱・肥大化させてしまうように思えます。
E127系直接転用が相対的に有利
想像できる範囲にも課題が見出せる車両の新製・他の車両転用に対して、E127系の転用はどのように評価できるでしょうか。
E127系は2連であることは勿論、安全確認カメラを用いないワンマン運転に対応し、更に機器更新時にATS-P取付を併施しているなど、南武支線で運行する為の条件を比較的多く満たしており、先頭車化改造などの大幅な改造を回避できるように見えます。
また、E127系0番台は既に新潟エリアでの定期運用を失っており、南武支線に直接転用してしまえば、他線区の乗務員や車両計画等を巻き込むことはありません。
弥彦線用E127系の気になる改造ポイント
・運賃箱…元々は回転式で向かって左側を軸に運転室内に収納→改造により横スライド式に(V2もトキ鉄譲渡前に類似改造済み)
・ATS機器箱…2017年、統合型ATS装置を搭載時した時に付いた機器箱。幅は座席3名分。 pic.twitter.com/ioOcdW6iRY— 藍 (@1151061n15) March 13, 2022
必要なコストは転用に向けた改造と、南武支線乗務員等への訓練に留まることが期待できる事から、意外にもE127系を直接転用する事が一番コストを抑えられそうです。
転用の課題は本当に重要か
E127系の直接活用は最も有利に見えますが、転用を否定する意見が出てくる程度には、現在の南武支線とは適合しない部分もあります。
ただし、これらは輸送障害を起こしかねない車両の稼働機会を減らす・無くすチャンスを見送らなければならない程の事情なのでしょうか。
所要数に満たない編成数
余剰となったE127系0番台は2編成ありますが、この数は2022年3月のダイヤ改正でも維持された南武支線の所要編成数(運用数2・予備数1)にギリギリ満たない数です。
しかし、これは予備も含めて考えた場合の話で、運用数に限れば2編成でも十分ということにもなります。
対策としては、運用はE127系2編成で原則回し、予備車は205系1編成を充てる方法や、終日運用を原則E127系に任せ、朝のみ稼働する運用は205系も共通運用とする方法など、無理に205系の完全置き換えまでは狙わずに、E127系の不足を最低限補える範囲まで在籍数・走行機会を絞ることで、輸送障害の発生リスクを抑える形とすれば、E127系だけでは所要数に満たない問題は解決ができます。
更に言えば、E127系には転用改造と同時に検査を実施してしまえば、暫くの間は検査入場による運用離脱が不要となり、より205系の稼働頻度を減らす対応が容易となるでしょう。
本来は置き換え対象の旧型車両をやむを得ず残留させなければならない場合に、その旧型車両の稼働機会を抑える方法は、(細かい事情は違うものの)埼京線の205系ハエ28編成でも見られた対応です。また、南武支線自体にも、205系による101系置き換えが行われている最中、一時的に205系2編成のみで2運用を担い、残っていた101系1編成は原則予備としていた実績があるようです(参考)。
以上から、E127系の転用を諦めるには至らない程度には、現実的な手段で対応ができる課題のように思います。
適合しない車両設備
205系1000番台には無い、或いは異なる設備がある事で、即ち南武支線に適合しない車両という見方もあります。
真っ先に挙げられるのは客用扉数で、205系の片側4ドアに対しE127系は片側3ドアで、1両あたり1箇所減少してしまい、ドア配置も大きく異なります。
また、車内では車端部のトイレや運賃収受型ワンマン運転の為の装備(運賃箱・運賃表など)、車外では電気連結器や貫通扉など、南武支線では過剰な設備は複数見受けられます。
E127内装 pic.twitter.com/gzKCcqP2ut
— NGT-5479 (@ngt5479) September 12, 2021
ドア数の違いは大きな相違点ですが、幸い南武支線にはホームドアの整備がなく、ドア数・配置が違う時点で運行ができないという事にはなりません。
尤も、旅客案内上は大きく異なる部分で、E127系運行にあたって全駅の乗車位置案内の整備や、駅掲示などで3ドア車両運行のお知らせは必須でしょう。
また、前節で言及した運用面を絡めて言えば、整列乗車に影響を与えないよう、その日に用いられる車両はE127系か205系いずれか一方に極力統一し、それが不可能であれば運行時刻を固定(=充当運用を固定)することが現実的な範囲でできることでしょうか。
車内の過剰設備も車両の走行に必要不可欠な部分は少なく、転用改造時に運賃収受関連機器は撤去、トイレは使用停止措置で対応できます。貫通扉や電気連結器は旅客者と関わる部分ではなく、わざわざ撤去・封鎖せずとも残置で問題はない筈です。
以上から、ドア数の違いや一部の設備など、利用者と触れる部分は駅案内・車両改造で対応ができる範囲で、運行を根本的に不可能とする事情ではなさそうです。
まとめなど
最後にまとめという形で、ここまでの内容から判断した私の見解や、ここまでに言及し切れなかった部分を補足します。
現実的だが急浮上した計画?
結論から言えば、E127系の南武支線転用は十分現実的な選択肢で、噂は事実であってもおかしくなく、仮にガセネタでも、(意図の有無は別として)昨今の情勢を上手く盛り込み、信憑性を高めた質の高いものであるように思いました。
E127系が南武支線に転属になるかもしれないと聞いて#嘘電#ウソ電 pic.twitter.com/0i4NlDRvBK
— インプ乗りのHαtεnα (@hatenacar) March 15, 2022
ただこれが事実である場合、予め計画されていたにしては、課題となる要素が比較的多く感じるのも確かです。
転用を肯定する要素の内、特に205系の老朽化・輸送障害実績と、車両新製が困難な情勢の2点は、車両計画上想定できなかったものである可能性が高く、E127系の転用はこれらを受けて比較的最近に計画されたものであるかもしれません。
FV-E991系は無関係?
敢えてここまでに言及を避けていましたが、E127系転属については、「FV-E991系と共通する設備(特に扉の数)」「FV-E991系と併せて205系を置き換え切れる」ことなど、FV-E991系が関連していることが有力視されているようです。
確かにドア数や編成数を見れば一致する要素ですが、FV-E991系はあくまで水素燃料電池車の試験車両に過ぎず、ましてや205系置き換えの為に定期旅客列車に用いる・南武支線系統の所要編成数に含める選択肢は考えにくいように思います。
何らかの関連があるとすれば、水素燃料電池車の実用化は当初は2024年度と近い時期に予定されており、この頃から導入・実用する車両がFV-E991系に極めて近い設計の3ドア水素燃料電池車であったため、それを踏まえて3ドア車の先行投入・併用に備える為にE127系転用を計画した可能性はあるかもしれません。
いずれにしても、FV-E991系そのものが直接関連している訳ではないように思います。
現車の近況
(執筆進捗が悪く、)記事公開までの間にE127系を2編成とも長岡車両センターに疎開させるような動きが発生していたようです。
幸い噂の真偽を確定させるものではなかったものの、長岡車両センターは配給輸送ができる電気機関車が所属する配置区所で、その気になれば配給輸送の準備を始めやすい環境が回送先に選ばれたように思います。
車両の疎開は時に数ヶ月・数年単位に及ぶ例もありますが、E127系に関しては早ければ今年度内、或いは来年度の早いうちに、答えが分かるような動向を期待しても良いのかもしれません。
コメント
E217置き換え決定しましたね