鉄道車両を見ていると、同じ形式でありながら、ある編成は長く活躍している一方、別の編成は比較的早い段階で廃車になっていることがあります。
同じ時期に製造され、同じ路線を走ってきたように見える車両でも、なぜ廃車になる時期が違うのでしょうか。
その理由は、単純な「車齢」だけではありません。
同じ形式でも車両の状態は異なる
まず考えられるのが、車両ごとの状態の違いです。
同じ形式でも、製造された時期や走行距離、使用された路線によって車両の負担は変わります。
例えば、長距離を頻繁に走る車両と、比較的短い距離を走る車両では、同じ年数を使用していても走行距離に大きな差が生まれることがあります。
また、車体そのものだけでなく、台車、主電動機、制御装置、補助電源装置、空調装置など、多くの機器が長年の使用によって劣化していきます。
そのため、「製造から30年だから廃車」というように、年数だけで一律に判断されるわけではありません。

廃車と転属で明暗の分かれた四国2000系
走行距離も重要な判断材料
車両の使用状況を考えるうえでは、走行距離も重要です。
同じ30年間使用した車両でも、毎日長距離を走ってきた車両と、走行距離が比較的少ない車両では、機器や台車などへの負担が異なります。
特に通勤路線では、朝夕のラッシュ時に高頻度で運転されるため、車両の走行距離が伸びやすくなります。
一方、運用範囲が限定されている車両では、同じ車齢でも走行距離が少ない場合があります。
この違いも、車両の今後を考えるうえで無視できません。

後期に製造された車両がしばらく残存しているE2系
「修理するか、廃車にするか」という判断
車両を長く使うためには、古くなった機器を交換したり、車体を修繕したりする必要があります。
しかし、すべての車両を同じように更新するとは限りません。
例えば、ある編成の機器を大規模に更新するより、新型車両を導入した方が長期的には効率的だと判断される場合があります。
逆に、車体や台車の状態が良く、必要な機器だけを交換すればまだ十分に使えるのであれば、更新して使用を続けるという選択肢もあります。
つまり廃車の判断には、
「この車両はあと何年使えるのか」
だけでなく、
「あと何年使うために、いくら費用が必要なのか」
という視点も関係しています。

リニューアルと廃車が並行した新京成8800形
部品の確保が難しくなることも
古い車両では、部品の問題も大きくなります。
製造から長い年月が経つと、その車両に使われている機器が製造終了になっていることがあります。
メーカーから部品を購入できなくなれば、修理のたびに代替品を探したり、既存の機器を改造したりする必要が出てきます。
同じ形式の車両でも、先に廃車になった編成から部品を確保できる場合もあります。
そのため、同じ形式が大量に残っている時期と、少数だけ残っている時期では、維持するための条件も変わってきます。

一部編成が部品取りの為廃車となった上毛電鉄700型
編成両数の変化も廃車につながる
意外と重要なのが、路線側の事情です。
例えば8両編成を必要としていた路線で利用者が減少し、6両編成や4両編成でも対応できるようになれば、余剰となる車両が発生する可能性があります。
逆に、ホーム延伸や輸送力増強によって、より長い編成が必要になる場合もあります。
このような変化によって、車両そのものに大きな問題がなくても、運用上必要なくなるケースがあります。

10連に置き換えられた都営10-300形8連
新型車両の投入順でも差が生まれる
新型車両への置き換えも、廃車時期の差を生む大きな要因です。
例えば、同じ形式が100両残っていたとしても、新型車両が一度に100両導入されるとは限りません。
まず20両、次に30両、その後に50両というように、数年かけて段階的に置き換えることがあります。
その場合、同じ形式の中でも、最初に置き換えられた編成と最後まで残る編成で、廃車時期に数年の差が生じます。
さらに、製造時期の違いや編成ごとの仕様差があれば、置き換えの優先順位が変わる可能性もあります。

廃車開始から9年、現在も僅かに残る京成3600形
転属によって「廃車を免れる」車両もある
一方で、本来なら置き換え対象になった車両が、別の路線へ転属することで活躍を続ける場合もあります。
転属先で必要とされる性能や編成両数に合っていれば、まだ使用できる車両を別の場所で活用できます。
この場合、元の路線では姿を消しても、車両そのものは廃車にならず、別の路線で「第二の人生」を送ることになります。
逆に、転属先でも必要とされる条件を満たさなければ、そのまま廃車となることもあります。

急遽多摩湖線に転用されたとみられる西武9000系
同じ形式でも「使用状況」が違う
同じ形式だからといって、すべての編成が同じ運用をしているとも限りません。
特定の編成だけが特定の列車や運用に入ることもあり、その結果として走行距離や機器の使用状況に差が生まれる場合があります。
また、改造工事を受けた編成と受けていない編成では、今後も使用を続けるための条件が変わります。
こうした違いが積み重なることで、同じ形式の中でも「先に廃車になる車両」と「最後まで残る車両」が生まれます。

京浜東北線撤退時に廃車と転属が大きく分かれた209系
「最後の1編成」になる理由
鉄道ファンにとって興味深いのが、形式の「最後の1編成」です。
同じ形式が次々と廃車になる中で、なぜか最後まで残る編成があります。
そこには、単純に状態が良かったという理由だけでなく、必要な編成数との関係や、他の編成との仕様差、検査時期、運用上の都合など、複数の要因が重なっている可能性があります。
そのため、形式消滅が近づいてきたときには、「この編成が最後まで残ったのはなぜなのか」を調べてみるのも、車両を見る面白さの一つです。

数年に渡り「最後の1編成」となっている京成3400形
「古い順に廃車」とは限らない
ここまで見てきたように、鉄道車両の廃車時期は車齢だけでは決まりません。
車両の状態、走行距離、機器の更新状況、部品の確保、新型車両の投入、編成両数、路線の輸送需要、転属の可能性など、さまざまな条件が関係します。
そのため、同じ形式で「こちらの編成の方が新しいのに先に廃車になった」ということも起こり得ます。
鉄道会社にとって車両は、単に古くなったから交換するものではありません。
「これからも使い続ける価値があるのか」「更新する費用に見合うのか」「別の場所で活用できるのか」といった判断の結果として、廃車や転属、更新などの進路が決まっていくのです。

異端故に早期廃車された東武10080型
廃車時期から鉄道会社の考え方が見えてくる
車両の廃車が発表されたとき、単純に「○○系が廃車になった」と見るだけではなく、その編成がなぜこのタイミングで置き換えられるのかを考えてみると、鉄道会社の考え方が見えてきます。
新型車両の投入計画はどうなっているのか。
同じ形式の他編成はどうなっているのか。
更新工事を受けているのか。
転属する可能性はあるのか。
こうした情報を組み合わせることで、今後どの車両が残り、どの車両が姿を消していくのかを予想することもできます。
「古い車両から順番に廃車になる」。
鉄道車両を見ていると、必ずしもそうではないことに気付きます。
同じ形式の車両を追いかけてみると、一編成ごとに異なる運命をたどっていることが、鉄道車両の面白さなのかもしれません。


コメント
10-300形だけは車齢が若く、少々勿体なかったと思いました。置き換えに至った経緯としては、単独M車のMM’ユニットへの改造が想定より手間がかかることが判明したためというのが有力ですが、それであれば1編成あたり単独M車を廃車とする代わりにMM’ユニットとT1両を新造して組み込めば編成単位の廃車は免れたのではないかな、と思いました。