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関東大手民鉄・地下鉄の保安装置更新時期④設備動向編

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施設動向
2024年度中の使用開始に向けて地上・車上共に準備が進む東京メトロ丸ノ内線
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列車無線デジタル化に伴う車両改造が落ち着きつつある2022年から2023年にかけての年末年始ですが、今後同じ規模で所属車両全てに車両改造を要する事象として保安装置の更新が考えられます。この連載では、これまでの各社局・路線における保安装置の更新時期に焦点を当てることで、車両動向の予測に寄与することを目的とします。本記事では、車両動向にも関係する保安設備の更新プロジェクトの進め方や切り換え方といった設備動向について、これまでに分かっている実例の情報を基に整理します。

1.はじめに

本連載ではATSやATCといった列車運転上必要不可欠なATP機能を持つ運転保安装置の更新時期に焦点を当てます。記事中で頻出するため、読み進める上で最低限おさえていただきたい略称は下記の通りです。なお、本記事は各装置の機能面について論ずることを主たる目的としておりませんので割愛させていただきますが、今回は設備動向を扱いますので、少し用語の整理をしたいと思います。

ATS:Automatic Train Stop(自動列車停止装置)
ATC:Automatic Train Control(自動列車制御装置)
ATP:Automatic Train Protection(自動列車防護装置)
CBTC:Communications-Based Train Control(無線式列車制御)

「ATP」と「CBTC」について

ATSとATCは昔からある略称で耳馴染みのある方も多いと思います。比較的最近出てきたのが「ATP」や「CBTC」という略称です。
「ATP」は「自動列車防護装置」などと訳され、日本におけるATS(自動列車停止装置)やATC(自動列車制御装置)といった保安装置を包含した概念・装置です。
「CBTC」は「無線式列車制御システム」などと訳されます。米国電気電子学会が定める規格「IEEE1474」ではCBTCの要件が規定されています。この中で、CBTCのシステム階層として3つの階層が定義されていますが、必須の機能階層であるATP機能(さらに限定すれば連動機能を除く機能)のみを指して「狭義のCBTCシステム」ということが最近の日本国内における潮流のようです。
これらの用語の位置づけをごく簡単にまとめると、下図のようになります。※1※2※3

※上記解説画像の二次利用はご遠慮ください。また、さらなる創作(動画制作等)をなさる場合、お示しした各参考文献を参照していただくことを強くお勧めいたします。

2.プロジェクトの進め方

近年の新保安装置の開発について紹介する記事では、プロジェクトの経緯が示されていることがあります。ここではいくつかの事例を1つの表にまとめて可視化を試みました。以下に示します。
なお、本連載の枠外ですが、参考としてJR東日本の無線式列車制御システム「ATACS」における事例を含みます。

※上記比較画像の二次利用はご遠慮ください。また、さらなる創作(動画制作等)をなさる場合、お示しした各参考文献を参照していただくことを強くお勧めいたします。

プロジェクトの期間は、事業者・導入システムにより異なりますが、新システム使用開始5~7年前に立ち上がることが多いように見受けられます。小田急では新保安装置の検証を多摩線で時間をかけて行ったことが窺えます。車両面では、早い場合で新システム使用開始5年前から改造工事を行ったことが読み取れます。
なお、本連載第1回で述べたように、仮に今後CBTC化を図る鉄道事業者が現れた場合、既存技術の枠組みでない方法で列車制御を行うことになるため、上記でいう小田急D-ATS-P化時のように技術検証や詳細設計に時間を掛けることが予測できます。その場合、地上・車両双方に変化が現れるのはここまでの連載で考察した保安装置更新予想時期より少し早い時期になることが考えられる点に注意が必要です。

3.新・旧保安装置の切り換え方

従来使用していた保安装置から新保安装置へ切り換える場合、導入区間一括で同じ日に切り換える場合(相鉄のATS-P化やJR埼京線池袋・大宮間のATACS化)もありますが、数か月から数年かけて徐々に切り換えていく場合が多いようです。切り換えの推移について、詳細が示されている3社の事例をまとめましたので、以下に示します。

※上記比較画像の二次利用はご遠慮ください。また、さらなる創作(動画制作等)をなさる場合、お示しした各参考文献を参照していただくことを強くお勧めいたします。

上記の内、東武と小田急は郊外方あるいは支線から切り換えていき、東京都心寄りの区間は最後に切り換えていることが分かります。新旧保安装置の境界箇所における切換方の検討・対応が必要になりますが、設置工事や新旧切り換え、実運用上の改善点や経験を比較的列車密度の低い郊外区間で積み重ねることで、列車密度の高い都心寄りの区間における切り換え・使用開始をスムーズに行える効果が見込めます。
一方、京成は2010年7月の成田スカイアクセス線開業に合わせて都心部や成田空港周辺を優先的に整備していることが窺えます。路線の新規開業という重要な輸送施策に合わせて設備更新を行った事例といえます。

4.機器の寿命について

本連載ではここまで実際の更新周期を基に考察してきましたが、使用する機器の寿命はどの程度でしょうか。参考になる資料として、一般社団法人信号工業協会が2017年にとりまとめた「信号機器の耐用寿命に関する検討書」※4が挙げられます。これは保全や更新計画の参考として鉄道用信号装置の寿命を機器製作会社等が検討しまとめたものです。
例えば、多灯型色灯式信号機(LED型)であれば耐用(期待)寿命が10~15年、ATC/TD地上装置(アナログ)であれば途中オーバーホールを行う前提で耐用(期待)寿命が15~20年とされています。
実際には設置環境や構成部品の個別交換などによって、この資料で示されている期間から前後する可能性が考えられます。ただ、実例を基にここまでの考察で仮定した「20~25年程度で保安装置更新」という点については大きく外れていないことがお分かりになると思います。

5.まとめ

今回は設備動向の見方の一つとして、プロジェクトの進め方と新旧装置の置き換え方、機器寿命に着目して情報を整理し、考察を試みました。車両面では、新装置に対応しない車両の入線可能区間に影響し、車両寿命の予測に繋がる事柄といえます。ここで述べたことは導入する場所・時期・システム・輸送施策など様々な要因によって変動するため「今後も必ずこうなる」というわけではありませんが、地上設備に変化がみられた際に車両面も含めた今後の動向を予測する足掛かりになると考えます。
◇◇
本連載の調査にあたり、限られた時間の中で可能な限り多くの資料を参照するよう努めておりますが、見落としや転記ミスといった手落ちがあるかもしれません。お気づきのことやフィードバックがもしございましたら本記事コメント欄にお寄せください。

―本連載一覧―
関東大手民鉄・地下鉄の保安装置更新時期①大手民鉄編
関東大手民鉄・地下鉄の保安装置更新時期②地下鉄編
関東大手民鉄・地下鉄の保安装置更新時期③相互直通編
関東大手民鉄・地下鉄の保安装置更新時期④設備動向編
関東大手民鉄・地下鉄の保安装置更新時期⑤

6.参考文献

※1 中村英夫:「鉄道信号・保安システムがわかる本」, オーム社, (2013.05)
※2 富井規雄:「運転面からみた信号保安システムと近年の動向」, 鉄道ピクトリアル, Vol.73, No.1, p.10-20, (2022.12)
※3 国土交通省:「都市鉄道向け無線式列車制御システム(CBTC)仕様共通化検討会とりまとめ」,(2021.02) https://www.mlit.go.jp/common/001394016.pdf
※4 一般社団法人信号工業協会:「信号機器の耐用寿命に関する検討書」,(2017.10)  http://www.shingo.or.jp/
*1:鉄道事業者公式資料(報道発表資料、年譜、会社要覧、安全報告書、広報誌等)
*2:電気車研究会「鉄道ピクトリアル」各号
*3:日本鉄道運転協会「運転協会誌」各号
*4:日本鉄道技術協会「JREA」各号
*5:日本鉄道サイバネティクス協議会「サイバネティクス」各号、シンポジウム論文
*6:日本鉄道電気技術協会「鉄道と電気技術」各号
*7:鐵道界図書出版社「鐡道界」各号
*8:各社技報(該当する企業の略称を併記)

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