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西武グループ3社における鉄道車両更新動向

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車両動向
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西武グループ内の鉄道事業者では相次いで車両更新に関する情報が公になりました。本稿では、2023年10月時点の情報を基に、グループ内3社の鉄道車両更新に関する動向を概観します。

1.はじめに

本稿では西武グループに属する西武鉄道、伊豆箱根鉄道、近江鉄道の3社における鉄道車両更新動向を扱います。はじめに各社の車両更新に関する最近の動きや要点を整理します。次に、過去15年間に西武鉄道から2社に譲渡された車両の譲渡時点での経年を整理し、今後廃車見込みである車両の現在の経年と比較することで、会社間での車両異動の可能性を考えます。
なお、西武鉄道は過去に多数の中小民鉄に車両を譲渡していますが、話が発散してしまうため、本稿では西武鉄道も含めた西武グループ内3社に的を絞ります。各社の事業用車両は対象外とします。

2.西武鉄道の状況

2023年現在、西武鉄道では2000系の老朽取替を進めています。また、去る9月26日には「サステナ車両」として小田急電鉄から8000形を、東急電鉄から9000系を授受することが発表されました。
2030年度までに保有車両全VVVF化を達成する計画であることから、通勤・急行形車両では2000系のほか101系、4000系などの廃車が発生することが見込まれます。
この内、2000系は下表のように2023年10月末時点で計242両が残存しています。

西武2000系 編成両数別残存本数(2023年10月末現在)
2連 4連 6連 8連 合計両数
11本 14本 6本 16本 242両

2023年度は40000系を40両新製することが設備投資計画で明らかになっており、既に16両の2000系が搬出あるいは横瀬車両基地へ移動済みです。新製両数と同程度の廃車が発生すると仮定すれば、年度末までの残り5か月ほどで24両程度廃車されることになり、2023年度末時点で218両となります。この218両の内、国分寺線へ投入予定の小田急8000形により、現状の6両編成所要最大数6本と検査予備1本を考慮し、42両を置換可能であると仮定すると、残りは176両となります。新製両数30両/年という近年の数字を2020年代中維持する場合、6年で淘汰可能で、最短で2029年度中には2000系を全廃できる計算です。
なお、今後の2000系廃車動向を考えるうえで注意が必要なのは、検査周期や搭載品等の都合だけでなく、車両運用のバランスを考慮して廃車計画を立てている可能性が高いことです。平日・土休日ダイヤの輸送力調整に2両編成が使われているなどの事情から、列車ダイヤ・車両運用と連動させながら、複数年度にわたって短編成の組替需要を縮小する方向性であることが推察される状況です。参考として、老朽取替が開始された2015年度からの編成両数別廃車本数を下表に示します。

3.伊豆箱根鉄道の状況

伊豆箱根鉄道では、現時点では明確な車両更新の動きは見受けられません。
直近の車両更新は、2008年から2009年にかけて、過去に西武鉄道から譲受した1100系を1300系に更新したものです。その他の自社製造車両については継続して使用しています。
伊豆箱根鉄道所属の営業車両の陣容は、いずれも3両編成で、駿豆線向けが3形式計10編成、大雄山線向けが1形式7編成の計17編成です。車体構造をみると、鋼製車が7編成・約41%となっており、残り10編成・約59%はステンレス車です。また、車体長が駿豆線向け車両と大雄山線向け車両では異なることに注意が必要です。具体的な各編成の略歴は下表のとおりです。

鋼製車は製造から40年以上経過しており、一般的な車両寿命からすると車両更新を考える時期に差し掛かっているといえます。実際、東京メトロ03系の置き換えが進行していた頃には「伊豆箱根鉄道が03系を取得する」という趣旨の噂が出回り、それを裏付ける形で短編成化された03系の留置が続く状況が見受けられました。


しかし、伊豆箱根鉄道への譲渡は現在まで実現していません。加えて、伊豆箱根鉄道の鋼製車は2020年代に入ってからも全般検査を通過し、営業を継続しています(参考:(まとめ)伊豆箱根鉄道 )。状況の積み重ねによる間接的な推論にすぎませんが、「車両更新の必要性はあるものの2020年代初頭の車両更新は見送られた」可能性が考えられます。
前述の通り、同社ではステンレス車が多数派となっているほか、駿豆線ではJR東日本E257系2500番台の入線により対地上設備の観点ではVVVF車導入の障壁がある程度下がったと捉えることができます。以上のことから、今後の車両更新をめぐっては、グループ会社である西武鉄道の廃車車両に拘らず、グループ外他社からの譲受や新造車導入、既存車両の延命といった幅広い可能性が残存している状況といえます。

4.近江鉄道の状況

近江鉄道では2021年頃まで断続的に老朽取替の動きがありましたが、その後停滞していました。しかし、去る10月24日に西武鉄道との協定が締結され、支援内容の一つに鉄道車両の提供が含まれていることが報道で明らかになりました。
近江鉄道所属の営業車両の陣容は、いずれも2両編成で、4形式18編成です。具体的な各編成の略歴は下表のとおりです。

800形は製造から55年から58年が経過しており、一般的な車両寿命40年を超過しています。2017年からは断続的に800形の廃車が発生し、これまでに3編成が廃車されています。一方、現在も10編成が残存しており、継続して車両更新を進める必要性が垣間見えます。2022年には業界誌に下記のようなコメントを寄せています。

“車歴の古い車両については、今後部品調達やメンテナンスが難しくなることが予想され、車両の置換えを随時実施していく予定です。”

橋本:「近江鉄道電車区の概要」, R&m : Rolling stock & machinery, Vol.30, No.8, p.32-34, (2022.08)

こうした背景があった中、去る10月24日に近江鉄道は西武鉄道との間で「近江鉄道線の安全運行の確保及び利便性向上に関する支援協定」を締結しました。この協定における支援内容として、▽技術支援、▽人材派遣、▽鉄道車両・資機材の提供を受けると報道されており、今後も西武鉄道から鉄道車両の提供を受ける方向性であることが示唆されました。前述のように、西武鉄道では複数形式で多数の廃車が発生する見込みで、車両の供給源としては十分な力があるといえます。ただ、後述のように新製後の経年や車両改造の規模などから選択肢はそう多くないと推察されます。
なお、同じく10月24日に開催された「第12回 近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会」では、鉄道事業再構築実施計画の概要が示されたとされており、この中で観光列車導入検討に関する項目があると報道されています。近江鉄道では予てよりビア電や地酒電車などといった季節に合わせたイベント列車を運行していますが、観光列車は現状運行されていません。目指す方向性が示されておらず現段階では推測の域を出ませんが、週末等に運行されるような観光列車の場合、特定の編成・車両に相応の設備を用意する可能性が高く、車両計画に影響するとみられます。

5.譲渡時期の傾向と廃車見込み車両の状況

5.1 譲渡時期の傾向

過去に西武鉄道から伊豆箱根鉄道や近江鉄道に移った車両の経年はどの程度だったのでしょうか。101系・3000系が譲渡された時点での経年を下表に示します。

この表から、新製後26~33年で西武鉄道の手から離れ、各社に譲渡されたことが分かります。新製後30年程度が判断のポイントといえそうです。

5.2 2020年代中の廃車が見込まれる車両の状況

西武鉄道において2020年代中に廃車が見込まれる形式の残存車両で、前述した新製後30年程度の枠に当てはまる車両はどの程度存在するでしょうか。各形式の状況を整理します。
101系は、現在残存している4両編成7本がいずれも1980年前後の新製です。つまり、新製後40年が経過しているほか、公表されたサステナ車両導入計画では101系を置き換える東急9000系が導入されるのは2025年度からとされているため、廃車される頃には最短でも45年が経過してしまいます。老朽化が進行していることが想定されるほか、短編成化する際は先頭車化改造等が必要です。
2000系は、編成により差異があるものの1980年代後半から1990年代前半にかけて新製された車両が多く残っています。中でも8両編成では、新製後31年程度と比較的経年が浅い編成が残存しています。譲渡先で使いやすい2両編成は、旧2000系2409Fを除いた10本が1988年から1990年にかけて新製されており、早い編成では既に新製後35年経過していることは注意点といえます。
4000系は、1988年から1992年にかけて製造されており、こちらも新製後30年が経過しています。同形式は2扉・セミクロスシートと独特の構造で、譲渡先の通勤・通学輸送時にロングシートが求められる場合、大規模な改造工事を要します。また、101系と同様に2両編成などに短編成化したい場合は先頭車化改造等が必要です。
以上から、2000系と4000系は新製後30年強の車両が多く残存しているものの、3形式とも新製後30年未満の車両は無い状況であることが分かります。
今後、近江鉄道が西武鉄道から車両提供を受ける場合、譲渡実績があるという観点では101系がまず候補に挙げられますが、経年が高くなっており、可能性は低いと考えられます。観光列車用途を考慮すると4000系も視野に入りますが、複数の編成を必要とする用途ではなく、改造の手間も多くなることが予想され、こちらも可能性は低いと考えられます。この3形式の中で比較的可能性が高いといえるのは2000系です。既存車両との扉数の違いや2両編成の場合はMT比が異なるなどの懸念はあるものの、300形と同じ界磁チョッパ制御車で、まとまった数の車両と部品を供出できる点では車種選定において有利になることが考えられます。いずれにせよ、直近の譲渡車と比較して今後提供される車両の経年が高くなってしまうことは避けられず、経年の高さと改造工事の手間・費用などを天秤に掛け、選定・準備を進める状況といえます。

6.おわりに

本稿では西武グループ3社の車両更新の動きに着目し、状況を整理しました。各社の動向を端的にまとめると下記のようになります。
▽西武鉄道は2020年代中に複数形式で新製後30~45年程度の車両が多数廃車見込み
▽伊豆箱根鉄道は車両更新の必要が迫るも、対応は独自路線をとる可能性
▽近江鉄道は西武鉄道からの車両提供を受けて車両更新を進める方向
少なくとも西武鉄道と近江鉄道の間では2020年代中に車両の異動が見込まれる状況で、当面はその動向が注目されます。また、本稿では扱いませんでしたが、グループ外で過去に西武鉄道から車両譲渡を受けた鉄道事業者も西武鉄道の廃車動向に注目している可能性は否定できず、広く動向を注視していくことが重要です。
◇◇
本稿の執筆にあたり、限られた時間の中で多くの文献を参照するように努めていますが、心得違いや転記ミスがあるかもしれません。お気づきの点やフィードバックがございましたら、本稿のコメント欄にお寄せください。
※本稿各画像の二次利用はご遠慮ください。また、さらなる創作(動画制作等)をなさる場合、お示しした各参考文献を参照していただくことを強くお勧めいたします。

参考文献

*鉄道事業者公式資料(報道発表資料、年譜、会社要覧、安全報告書、広報誌等)
*ジェー・アール・アール「私鉄車両編成表」各号
*交友社「鉄道ファン」各号
*一般社団法人 日本鉄道車輌工業会「車両技術」各号
*西尾恵介「所沢車輌工場ものがたり〈下〉」, ネコ・パブリッシング, (2002.02)

コメント

  1. 伊豆箱根鉄道は、7000系がJR直通運転設計であるとこを考えると、東海の311系が来るのが現実味高いです。
    あと、西武2000系は、M車比率高めの平坦地運転前提しゃなので、4連を3連化する事はあっても、MT比率1:1の付属編成単体で譲渡運用はあり得ません。
    近江・三岐にはJR211-5000が適当。

    • ご指摘の通り、伊豆箱根鉄道7000系はJR線への直通を見越した仕様で作られていますが、台車に関しては異なる仕様です。
      同形式と近い時期に作られたJR東海211系や311系はボルスタレス台車ですが、7000系はダイレクトマウント台車です。採用経緯について、“単に西武鉄道で試用されていたものを流用した”という見方もできますが、伊豆箱根鉄道駿豆線の路線特情により台車仕様を合わせられなかったことも考えられるのではないでしょうか。その点では、当面廃車が発生するJR東海の車両が譲渡される可能性は限りなく低いと思います。

  2. 本文では明確に触れられていませんが、西武2000系2連の残存本数11本と近江800形の残存本数10本とほぼ同数なのですね。
    MT比の違いやワンマン機器の設置スペースといった課題はありますが、先頭車化改造をするよりは手軽に近江向けのカスタマイズができそうな気がします。

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