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鉄道車両の「冗長性」—E233系の待機二重系について

車両技術

鉄道趣味が転じて乗り物趣味になりそうです。

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2006年9月、中央線用E233系0番台が落成しました。E233系は、それまでのE231系・E531系などから蓄積されたデータによって導入された新たな観点やコンセプトのもと開発されました。その特筆すべき技術の中でも、ここでは「待機二重系」というシステムについてご紹介します。

E233系の開発コンセプト

E233系は、次のようなコンセプトに基づき開発されました。

  • 故障に強い車両
  • 人に優しい車両
  • 情報案内や車両性能の向上
  • 車体強度の向上
  • 「待機二重系」は、特に「故障に強い車両」というコンセプトに対して開発されたシステムです。
    一般的に、それまでの鉄道車両は故障時に通常より能力が低下した状態でも、乗客・乗員の安全が図れるようにするという考え方である「フェイルセーフ」に基づいていました。しかし、E233系は冗長性を備えることとし、様々な機器においてバックアップを備えることで、故障時でも通常時と同等の能力を持てるようになりました。

    E231系とE233系の比較

    例として、上野東京ライン系統を走る、小山車両センターのE231系とE233系(基本編成)を比べてみましょう。
    MT比をみると、E231系は4M6Tなのに対し、E233系は6M4Tとなっています。E231系に比べM車ユニットが1ユニット増加しています。それに伴い、VVVFインバーターと空気圧縮機(CP)も1ユニット増加しています。
    E233系は、両先頭車に搭載されるATS-P(※1)、補助電源装置(SIV)、さらにはワイパーやTIMS装置(※2)について、二重系が構成されています。ただし、故障率の低い機器(しゃ断器やリアクトル)は一重系とされています。

    【表1】E231系1000番台基本編成(機器更新済)
    【表2】E233系3000番台基本編成
    さらに、パンタグラフもE231系は2台なのに対し、E233系は4台となっています。予備のパンタグラフを搭載することで、通常使用しているパンタグラフが故障した際も、継続して運行することが可能となりました。加えて、モータの出力が95kWから140kWとなり、SIVの容量も210kVAから260kVAとなりました。E231系に比べて搭載台数が多いだけという点だけでなく、出力・容量が高まったことで、1ユニットが故障した時の影響が軽減(牽引力が半減→3分の1)されました。(※3)
    このように、E233系はE231系などそれまでの車両に比べると高い冗長性を兼ね備えた車両となりました。

    ※1:従来のD-ATCなどは多数決方式(2 out of 3)をベースとして動作していた一方、乗務員に対する警報を主とするATSは1重系を基本としていました。
    ※2:E231系でもTIMSは二重系でしたが、伝送路をラダー構成としたことで冗長性が確保されるようになりました。
    ※3:M車ユニットの増加により編成重量・消費電力が増加しましたが、回生ブレーキの能力向上などにより影響軽減がなされています。

    E235系・E131系、今後の車両への継承

    このようにして構築された「待機二重系」というシステムは、現在の最新鋭車両、E235系やE131系に受け継がれています。
    E235系のINTEROS装置や、E131系の搭載する最新のMON装置(MON-25)は、E233系で大成されたTIMS装置や、209系Mue-Trainでの試験によって完成されました。その他にも、多くの技術が引き継がれています。
    CBM(Condition Based Maintenance)を用いて高効率化された保全体系と、E233系が築いた冗長性を備えた最新型車両は、今後の主流となっていくことでしょう。

    参考文献

  • 鉄道ピクトリアル 2021年4月号
  • 鉄道ファン 2014年8月号(特集記事)
  • 「メンテナンスの課題と次世代に向けた研究開発」 尾高 達男(JR東日本研究開発センター テクニカルセンター所長)
  • コメント

    1. 些細な話で恐縮ですが、E231系も制御トポロジーはラダー形と記憶しています。

      • E231系もラダー系なのですね。ありがとうございます。車両間の伝送路、Ethernet技術等も含めてもっと掘れそうな分野です。

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