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新系列検修棟とマルチ検修ライン

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車両技術
東京総合車両センターの車体修繕場

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昨年以降、S&E(ミライの車両サービス&エンジニアリング構創)に関する情報が出ており、「車両を編成状態のまま一括で上げて検査できる設備」として「西日本」「北海道」を例にしたマルチ検修ラインの導入が挙げられています(文献1)。資料や私見を交えて、具体的なイメージをまとめたいと思います。

工場の役割

ここでは検修設備を紹介するため、最低限の検査体系を簡単にご説明します。(検査体系については別の記事にしたいと思います。)

省令上の検査 新保全体系 モニタリング保全体系 施工箇所
89条の列車の検査 仕業検査 仕業検査 留置箇所など
90条の状態・機能検査
(交番検査)
機能保全(月) A保全 配置区所
機能保全(年) B保全
90条の重要部検査 指定保全 C保全 工場
90条の全般検査 装置保全 D保全
車体保全

JRの電車の場合、仕業検査は配置区所や留置拠点、機能保全は配置区所、指定保全より重い検査は工場で行うのが基本です。(ただし、配置区所で指定保全を行うE129系、在幹区に配置されている標準軌の719系、701系など、例外があります。)
工場の基本的な業務は、半数が指定保全、もう半数が装置保全・車体保全となります。この2つのグループ、最大の違いは台車を交換するかどうかで、指定保全ではそのままの台車で検査を行うことができます。(正確には一部の701系など指定保全でも車輪取替をする車両や、他の工事との兼ね合いで交換が発生することもありますが割愛します。)

新系列検修棟+他

東京総合車両センター(工場)は、従来の検査設備に加え、1997年11月に新系列検修西棟、2004年12月に新系列検修東棟が建設されました。
西棟は5両まで、東棟は11両まで、編成を組んだ状態で、指定保全、装置保全が可能です。各検修スポットは1両分ずつで、編成位置をずらしながら工程を進めていく形です。

また、新系列検修棟ではありませんが、2014年7月以降、大宮総合車両センター東大宮センター(東大宮)で新系列電車の指定保全を行っています。廃止された田町車両センターの機能は、2013年3月に国府津車両センター(交番検査線1本増設)、東大宮 (交番検査線2本、臨時検査線1本新設)に分散移転しましたが、そのうち東大宮の1線を活用しています。

2020年現在の一般型電車の検査は、保安装置に支障が無いE233系指定保全をなるべく東大宮で行い、残りの指定保全、装置保全は東京の新系列検修棟で行い、そこからも溢れた装置保全と車体保全は東京・大宮の「従来の検査設備」で行うような状況になっています。
そのため、同じ東京総合車両センターに入場しても、装置保全に時間を要する編成と要しない編成が出てきます。

マルチ検修ライン

マルチ検修ラインは、元資料(文献1)に他社の例として「西日本」「北海道」が挙げられています。業界では西日本会社の網干総合車両所が有名です。
東京総合車両センターの新系列車両検修棟は、最大11両編成(東棟のみ、西棟は5両)を組んだまま指定保全、装置保全ができるものの、各検修スポットは1両分ずつで、編成位置をずらしながら工程を進めていく形です(文献5)。例えば、台車脱着であれば、2台車分の機械で、1両ずつ交換を進めていきます。一方、網干は1レーンに16台車分の機械があり、8両の台車脱着が並行して進みます。車体は動くことなく、19台の天井クレーンを使って並行して作業が進められる設備になっています(文献4)。

工程は東京も網干も6日を公称していますが、検査メニューの違いもあるため時間的な優劣は付けにくいです。地上設備の利用効率は、東日本方式が勝るはずですが、1か所でトラブルが起きると全体に波及してしまい、工程管理が難しいと推測されます。検修ラインがマルチになれば、より柔軟に工程を進めることができます。なお「北海道」の函館新幹線総合車両所は、網干を参考にした同じ方式(台車振替線・8両まで)です。
このような大型設備は、稼働率が高くないと効果を出すのが困難で、何か所も建設するようなものではないと考えられます。

具体的な建設計画

新しい検修設備と思われる記述として、東京総合車両センターでは「来年度から工事を着工して3年後の稼働を目指す」、「車修場(車体修繕場)の3区を潰して10両を検修する」との記述があります(文献2)。車体修繕場は東京総合車両センターに残る「従来の検査設備」で、明記されていないものの、これがマルチ検修ラインを指している可能性があります。
場所は新系列車両検修西棟の隣(東側)で、今後の動向が気になるところです。

追記

記事公開の2か月後、その新しい検修設備が「新保全センター」と呼ばれていることが明らかとなりました(文献7)。

参考文献

  1. 外部に公開された労組資料(1)・・・保護のため鍵をかけています。
  2. 外部に公開された労組資料(2)・・・保護のため鍵をかけています。
  3. 中島ら:新保全体系の導入による車両メンテナンス革命、総合車両製作所技報 第1号、2013年1月
  4. 川本ら:網干総合車両所に設置した最新式検修設備の特徴について、日本鉄道車両機械技術協会協会誌、2000年9月
  5. 横村ら:新系列車両検修の工程改善と品質向上の取組み、日本鉄道車両機械技術協会協会誌、2015年7月
  6. 菊地:品川車両基地整理縮小に伴う周辺車両基地整備の概要、日本鉄道車両機械技術協会協会誌、2014年1月
  7. 外部に公開された労組資料(3)・・・保護のため鍵をかけています。

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