南武線のカラー帯は、黄色、オレンジ色、ブドウ色の組み合わせです。この帯色の由来、サッカーチームのユニフォームのはずが、近年はJR公式や報道でも、歴代の電車の色と紹介されるケースが散見されます。何が起きているのでしょうか。
当時の報道はサッカーユニフォーム
当時の報道は、間違いなくサッカーユニフォームでした。
1989年3月に営業を始める205系ですが、1989年2月28日付の読売新聞川崎版に、帯色の由来が掲載されています。南武線沿線4校の中学3年生1027人から公募を行い、「高津中のM君(15)の作品が採用された」「サッカー部に所属しているM君は(中略)ユニフォームに使われていた『かっこいい』3本線に目をつけ、車体の顔(前面)と側面のラインを黄、オレンジ、ブドウ色を4・2・1の割合に配色した」と明記されています。非常に具体的な話です。(参考画像)
2014年の「つなげる つながる なんぶせん」
2014年以降、E233系の車内広告で、南武線カラー帯の由来が「歴代の電車の色」と紹介されました。旧型国電はブドウ色、101系時代は橙色、103系時代は黄色、みたいな単純化されたイラストで、JR公式(から委託を受けた広告業者?)が、1989年当時の報道と異なるストーリーを放映しています。デザインを変えながら最近も放映されているようです。
E233系ナハ車のトレインチャンネルで見れる、南武線ラインカラーの由来。
ラインカラーは歴代の南武線車両を指し、
黄色(黄1号)…101系や103系
朱色(朱色1号)…101系(快速用)
茶色(ぶどう色2号)…旧国
…を指している。 pic.twitter.com/RmsQVESGtN— 通勤特快//なんぴょん (@Nanpyong) April 13, 2015
JRがこのような見解を示すのは、2014年に始まったことではなく、例えば2013年の中原電車区の掲示でも同様の記述が見られます。もっと前から同じ認識が広がっていたようです。中原電車区は、約25年前の公募を実施したプロジェクトチームにも名前を連ねていたはずなのですが…。
報道などでも…
報道などでも、「歴代の電車の色」説が広げられていきます。
例えば「鉄道トリビア」のような形で、南武線の帯色の由来を紹介したメディアもあります。関係者に取材をしたのかもしれませんが、上記の通り、公式のストーリーが異なってきているので、影響を受けるのは当然かもしれません。
こうなると、私設サイトなどは簡単に流されてしまい、事実が本当に見えなくなってきます。
広がりやすいネタと広がりにくいネタ
もしかすると、公募の中から選ぶ過程で「歴代の電車の色」に似ていることを理由に選定した、など、「歴代の電車の色」がキーになっている場面があるかもしれません。しかしながら、あくまでも公募、色を決めたのは建前上M君であって、M君がサッカーユニフォームから色を選んだのは事実なはずです。
なぜここまで「歴代の電車の色」説が広がったのかを考えると、やはり広がりやすいネタだった、に尽きると思います。南武線のカラー帯がサッカーユニフォーム由来と聞いても、ああそうなんですか、で済んでしまい、面白みがありませんよね。「歴代の電車の色」という「らしい理由」はトリビア的な面白さがあり、一気に広がります。1990年代、2000年代に、このような場面があったのではと思います。
今の鉄道情報も…
今回は非常に大きな話ですが、「広がりやすいネタ」の話は、多かれ少なかれ、昨今の鉄道情報界隈で見られます。
掴みやすい、意外性のある話は、往々にしてガセが含まれていることがあり、正しい情報は魅力に欠けることが多いです。気を付けたいところです。
余談
新たな風説を生みそうですが、1989年2月28日付の読売新聞川崎版には「外国のサッカー選手が着用しているユニフォーム」としか書かれていません。
私自身はサッカーに全く興味が無いのですが、当時の西ドイツのユニフォームが近い意匠と聞きます。仮にこのユニフォームがモデルであれば、南武線の帯色はドイツ国旗に由来しているかもしれません。
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